透ける
今回は私が体験した話を書かせていただきます。
私が数年前写真屋でアルバイトをしていた頃の話です。
当時はスマホやデジカメの現像で来店されるお客様が多く、
フィルムやネガを現像しに来るのは決まった常連さんで現像に時間が掛かる事を理解しており、
来店前には連絡を必ずくれる事が殆どでとても助かっていたのを覚えています。
そんなある日見かけたことのないお客様が来店されました。
見た目は30代位でひょろっとした男性のお客様が10枚位ネガを無造作にカウンターに投げ、
「各1枚づつL版で現像して。今すぐに。」
っと言ってこられました。
私は随分と無愛想な方だなと思いつつも受付表に名前と電話番号を頂き、控えを渡して説明をしようとすると、
お客様は「いいから早く現像して。」とだけ言って近くのベンチに座って俯いてしまいました。
私はまぁ、たまにはこんな人もいるよな・・・と思いつつ現像機にネガを入れ、
色合いを確認しようとパソコンの画面に目をやりました。
そこには家族旅行の写真と思われるものが映し出されており、一枚一枚確認していくとおかしな写真が紛れ込んでいることに気づきました。
パッとみは普通の家族写真。体の一部が透けている人間が写り込んでいるのです。
服装や体格的に同じ人物だとわかりました。
写真によっては頭だったり手足だったり酷いものは腕しか写っていないものもありました。
まぁ、フィルムの写真では撮り方や劣化具合によってはよくあると先輩や店長から教えられていたのであまり気にせず作業を進めました。
現像し終えると私は写真を見せながら透けているのは劣化や写りによっては透けることをお客様に説明しようとしました。
しかし、お客様を写真を見るや「なんで透けてるんだよ!!」とご立腹。
まぁ、そりゃそうなるよな・・・。と思いつつ劣化や撮り方によってはこうなるとお伝えしましたが、
納得せず、困り果てているとお客様は大声で「今までは兄貴が透けてたのになんで俺が透けてるんだよ!!」と言い出しました。
私がぼー然としていると騒ぎを聞きつけた先輩が休憩室から出てきてくれて、事態を把握し、接客を変わってくれました。
私は先程お客様が言った「今までは兄貴が透けてたのになんで俺が透けてるんだよ」という言葉を頭の中で反芻していると先輩が戻ってきました。
私が先輩に謝ると先輩は大丈夫〜と言った後に、
「あのお客さん、何件も別の写真屋でも現像頼んだみたい。その度に今までは少し前に亡くなったお兄さんが消えていたはずなのに写ってる自分が少しずつ消えていったらしくて今回遂に腕だけになった写真が出てきたから怖くなって怒鳴っちゃったって。さっきの若い子に謝っておいてって言ってたよ。」と言って先輩は休憩室に戻って行きました。
一人残された私はどうしようかと思いながら立ち尽くしていると休憩室からひょっこり顔だけ出した先輩が
「あんまり考えすぎると気持ちが滅入るから考えない方が良いよ〜」とだけ言ってまた頭を休憩室に引っ込めていきました。
私はその後深く考えないよにして生活していきましたが、
それから数ヶ月ほど経った頃自宅にあった市の広報誌をなんの気無しに捲っていると、見たことのある名前が目に付きました。
その名前はあの透けた写真を持ってきた男性が受付表に書いた名前と同じものでした。
ただの同姓同名だと自分に言い聞かせ、私は広報誌をゴミ箱に投げ捨てました。