怪談収集家のメモ帳

管理人が聞いた怪談やらオカルト話を記録していきます。

命の恩人

専門学校時代の同級生の田崎君から聞いた話です。

 

田崎くんには仲の良い5歳年上の従兄がいたそうですが、田崎君の叔父に当たる従兄の父親がとある信仰宗教にハマってしまい、田崎君が小学5年生の頃信仰宗教が苦手な田崎君の父親と叔父が宗教が発端となり絶縁状態になってしまったそうです。

必然的に従兄のお兄さんとはそれ以降連絡は途絶えたそうです。

従兄弟さんと仲が良かった田崎くんは当時相当なショックを受け、信仰宗教の類は全く受け付けなくなってしまったそうです。(実際、宗教関連の話をしようとするとすぐどこかへ行ってしまう位でした。)

最初は悲しんでいた田崎くんでしたが、だんだんと従兄弟の存在が薄れていったそうです。

 

それから時は経ち、田崎くんが中学2年の夏休みに田崎くんが父親の実家へ帰省した時の事。

田崎くんの実家は結構な田舎でバスや電車は1つ乗り過ごすと次が2時間3時間待つのは当たり前といった所にある位の田舎でした。

実家には祖父母と長男夫婦と従兄妹(NOT信仰宗教)が住んでおり、そこに1週間程泊まるのが恒例となっていたそうで、周辺には他の親族も住んでいた為夏の夜には周辺に住む親族が代わる代わる訪れては一緒に夕飯を囲んでいました。(田崎くん曰く、「リアルサマーウォーズみたいな感じ」とのこと。)

その日もいつも通りやってきた親戚達と夕飯を囲んでいると、玄関のインターフォンが鳴った。

「こう言っちゃあれだけど、当時田舎って平和だからさ家の鍵開けっ放しの所が多いんだよ。

それを皆知ってるから他所の家でも声かけて平気でドアを開けちゃうし。」と田崎くんは言っていた。

叔母が玄関に行き、戸がガラガラと開く音がしたと思うと突然叔母のギャーという悲鳴が聞こえた。

なんだなんだと叔父を先頭に田崎くんの父親と親族が出ていく、次に聞こえたのは田崎くん父の怒号だった。

驚いた田崎くんが従兄妹達と顔を出すとそこには車椅子に乗った20代位の俯いた男性とそれを押す青白い顔の中年男性が立っていた。

従兄妹達は二人がお化けか幽霊に見えたらしく田崎くんの後ろに隠れTシャツの裾をがっつり掴んでいた。

田崎くんが「シャツが伸びるから止めろー」と従兄妹達に振り向きながら言っていると突然

「何しに来た!!入ってくるな!!」

「ちょっとなんだ!!」

などの怒号が聞こえてきたかと思うと従兄妹達が一斉にシャツから手を離し、後退った。

従兄妹たちは「兄ちゃんもこっちきてぇぇぇぇ!!」とか騒ぎ出し、なんのことかと思っていると突然肩に何かが触れた。

向き直るとそこには玄関にいた中年男性が嫌な笑みを浮かべて立っていた。

後ろでは父や叔父、親戚たちが引き剥がしていたが、引き剥がされまいと中年男性も手に力を入れているので剥がれないし田崎くんの肩には激痛が走る。田崎くんは「痛い痛い!!離して!!」と中年男性に大声で訴えるが、

全く聞く耳を持たない。

それどころか「素晴らしい」とか「うんうんこれならぴったりだ」とかぶつぶつ独り言を言っている。

田崎くんが痛みと恐怖と気味悪さで気絶しかかっているところに田崎くんの祖母が空の瓶ビールで中年男性の腕を数回殴り力が弱まった所を叔父・田崎くん父・その他親族が引っ張りようやく剥がれた。

田崎くんは安堵から祖母に泣きつき、中年男性は田崎くん父たちに引きずられていった。

その間も「離せ!!あれをよこせ!!」「あれをつれていくんだ!!」と大騒ぎしていた。

田崎くんは祖母が泣きながら「ごめんね。次男叔父がごめんね」と言っているのを聞いてあれが宗教にハマった叔父だと気づいた。そして玄関にいた車椅子の男性が従兄だということも。

祖母の静止を振り切り、急いで田崎くんは玄関に出たがもうそこには誰もいなかった。

それからすぐ田崎くんの父親が戻ってきてすぐに帰ることになった。

田崎くんはなんとか従兄のお兄さんに会いたいと言ったが我儘は聞き入れられず、無理やり車に押し込められる形で田舎から自宅へ帰った。

車の中で父親にしつこく従兄について聞いたが教えてもらえず、家についても教えてもらえなかったそうです。

 

家に着いて田崎くんは自室に籠もり泣いて気がついた時には眠ってしまっていたそうです。

気がつくとまだ周りが暗く、まだ夜だと理解できたそうです。

体を動かそうとすると体が動かない。

なんでだ!?と軽くパニックになっているとベットの横に人の気配を感じ、薄めで横を見るとそこには黒いモヤの中に何個も顔が浮かび上がっているものが立っていました。

その顔たちは田崎くんを見つめ、口々になにか言っています。

それは最初聞き取れなかったそうですが、だんだんと理解できたそうです。

 

「つぎはこいつがいい」

 

それを聞いて田崎くんは直感的にこの化け物のせいで従兄はあんなことになったのだと思ったそうです。

そして、次は自分の番だということも。

田崎くんは恐怖よりも従兄をあんな風にしたことが許せず、頭の中で黒いモヤをひたすら罵倒し続けました。

しかしそれを嘲笑うかのように顔付きのモヤが近づいてきます。

「あぁ・・・俺も兄ちゃんみたいになるんだな・・・兄ちゃんに会えるのかな・・・」

などと考えていると、突然黒いもやが横に吹っ飛びました。

田崎くんが驚いていると、吹っ飛んだ逆方向からひょろながの影が出てきました。

田崎くんは直感的にそれが従兄だと理解し「兄ちゃん!!」と頭の中で叫びました。

影に顔はありませんでしたが、影が頭を撫でるような動作をした後、

 

「父さんがごめんね。あれは頑張って連れて行くから心配しないでね。」

 

という昔聞いた優しい従兄の声が聞こえたそうです。

 

その翌々年の夏、父親の実家へ行くと事の顛末を長男叔父から聞く事ができました。

次男叔父とその場にはいませんでいたがその妻である従兄の母親はあの日逮捕されたそうです。

罪状は死体遺棄罪。

あの日、車椅子に座っていた従兄は既に亡くなっていたそうです。

叔母が悲鳴をあげたのは看護婦をしていたので亡くなっているのがわかったからだと教えてくれました。

次男叔父夫婦は従兄に神を体に迎え入れる修行と称して満足な食事を与えず、あの日の3日前に衰弱死させた。

焦った次男夫婦は田崎くんを身代わりにしよう考え、口の軽い親戚に

「今までの事を謝りに行きたい。三男家族が来るのはいつだろうか」と連絡を入れ、丁度田崎くん家族が実家に帰省するタイミングで事件を起こしたと。

田崎くんを狙った理由は息子が生前仲の良い親戚だったからと。

従兄の亡骸は祖父母の意向で田崎くんのお父さんの実家のお墓に入る事になり、毎年お弁当とおにぎりと大量の菓子類を持ってお墓参りに行くそうです。

私は気になってお菓子はわかるけどなんでおにぎりとお弁当?と尋ねると田崎くんは、

「兄ちゃんの影さ、本当にひょろひょろだったんだよ。

昔は大きかったのにさ。聞いた声も凄く弱々しくて『あぁ、本当に最期何も食べられなかったんだ』ってわかるくらい。なんか昔テレビで霊媒師の人がお供え物は死んだ人が食べられるって聞いて。兄ちゃん頑張ってあの黒いの連れていったみたいだし、絶対腹減ってると思って高1の時ばあちゃんに頼んでおかず貰って俺が爆弾おにぎり作って持っていったんだよ。そしたら夢に兄ちゃん出てきてさ、何も喋らなかったんだけどすごいにこにこしてたからそれ以降毎年持ってくようにしてんだ。兄ちゃんは俺の命の恩人だから恩返しにはこれくらいしかできないし。」と笑って答えた。